元アナウンサー&名編集者 共通の信念は「言葉が世界を創る」
- 稲葉 支央里
- 5月23日
- 読了時間: 7分

経営者向けのコーチング・コンサルティングのエキスパートとして活動中の原綾香。NHK秋田放送局や民間の放送局でアナウンサーを務めた後、ビジネスの世界に飛び込んだ。会社員時代に日本のセールスNo.1を決める大会「S1グランプリ」で女性初の完全優勝に輝き、2021年に独立。株式会社Nを設立し、現在、同社代表取締役として幅広く活躍している。
そんな原が、「人生の先輩であり、私の理想の生き方そのもの」と厚い信頼を寄せるのが、ヒラタワークス株式会社代表取締役社長の平田静子だ。平田は扶桑社に勤務していた2000年に『チーズはどこへ消えた?』(スペンサー・ジョンソン著)の編集を担当、発行部数400万部(当時)の大ベストセラーに導いた。その後、フジサンケイグループ初の女性役員を務め、退職後に自身の会社を設立、出版プロデューサーとして活動している。
30代の原と70代の平田。親子ほどの年齢差である2人を結びつけたのは、共に「言葉」を大切に、キャリアを積み重ねてきたという共通の価値観。今回は、「平田から見た原綾香の魅力」をテーマに対談を行った。
「言葉が世界を創る」2人をつなぐ共通の価値観
原綾香さん(以下、原)私は普段、親しみを込めて、平田さんを「お静さん」と呼ばせてもらっています。最初の出会いは、私が司会を務めた一般社団法人すごい会議のセミナーにお静さんが登壇された時でした。
平田静子さん(以下、平田)とてもよく覚えています。原さんは明朗快活で、若いのにしっかりした女性だなと思ったの。それから数年後、渋谷のカフェで偶然再会し、そこで話をしているうちに、意気投合してビジネスの話もする関係になったのよね。
原 お静さんは、「言葉が世界を創る」という価値観をお持ちで、私も10代の頃からそう感じていました。アナウンサーになってから、それを確信し、自分の信念にしてきたんです。お静さんとは人生やキャリアを歩むうえでの自分軸と言える価値観が同じで、お話をさせていただくたびに共感しますし、学びが多いです。
平田 言葉の力ってすごい重要ですよね。自分がいつも周りに感謝して「ありがとう」と言葉にすれば、感謝であふれる世界になる。反対に、ネガティブな言葉を発すると本当にそうなってしまう。例えば、政治家で「○○を実行します」という人と「○○を実行したい」という人がいたら、どちらが支持を得られると思いますか? この場合は「○○します」と言い切る人の方が信頼され、票を獲得しやすい。これだけでも、いかに言葉が世界を創っているかが分かりますよね。
原 本当にそうです。私も、仕事で悩んだり落ち込んだりしたときは、意図的に自分に前向きな言葉をかけて、奮い立たせるようにしています。でも、数年前に流産した時はすごくつらくて、3カ月ぐらい塞ぎ込んでいました。その時、お静さんが『でんでん虫のかなしみ』(作・新美南吉)という絵本をお勧めしてくださって。この本を読んで「自分だけが悲しみや苦しみの底にいるわけではない」と気付いてからは、心が軽くなりました。
それから、ふと「今の私は自分にどんな言葉をかけている?」と問いかけたら、自分を責める言葉ばかりだったんです。それをやめて、「そうだ。言葉が世界を創るんだ。同じ言葉をかけるのであれば、私は自分を責める言葉ではなく、勇気づける言葉をかけよう」と気持ちを切り替えたら、すぐに立ち直ることができました。
平田 人にかける言葉もそうだけど、自分にかける言葉もすごく大切よね。大変なこと、苦しいことがあっても自分をいじめるような言葉を使うのは良くない。反省と自己否定は違いますからね。でも、自分ではコントロールできないことや、どう頑張ってもだめだったら、手放す勇気も必要。どうにもならない物事には、固執しないことも大事だと思います。
原 本当に、どんな言葉を使うかで見える世界や人生が変わりますよね。だからこそ、私も「言葉が世界を創る」ことを多くの人に知ってほしいし、伝えたい。そして自分の人生やキャリアを輝かせてほしいです。

複雑な物事をシンプルに考え、伝えるスキルの重要性
平田 原さんは、アナウンサーのキャリアを持ち、現在はコーチング・コンサルタントとして活躍中です。人に「伝える」仕事をするうえで、心がけていることは?
原 アナウンサー時代から、複雑なことでもシンプルに考えるようにしています。難しいことを難しく伝えるのは簡単かもしれません。でも、誰にでも分かるようにかみ砕いて、かつ相手の心に届くように要点を伝えるのは難しい。自分の思考方法も同じで、物事をなるべくシンプルにとらえ、どう行動するかを考えると、スピード感を持って前進できる気がします。
平田 それには経験も必要だと思うのだけれど、原さんは若くしてそれを実現できていると思う。
原 ありがとうございます。アナウンサー時代、私はスタッフから渡された原稿をただ読むだけの仕事に抵抗を感じていました。取材に出て、自分の目で見たこと、感じたことを視聴者に伝えたかったんです。取り上げる“ネタ探し”から取材後の原稿作成まで自分で行っていましたから、このときに分かりやすくシンプルに物事を伝えるスキルが身に付いたと思います。
平田 それらのスキルが今の仕事につながっているのですね。でも、人気職業のアナウンサーを辞めたのはどうして?
原 言葉に関わる仕事は私の軸であり、人前で話すことも人の話を聞くことも好きです。でも、生涯アナウンサーとしてキャリアを積むことには違和感があったんです。「若いうちにさまざまな世界を見たい」「ほかのキャリアも模索したい」と考え、5年間のアナウンサー生活に区切りをつけました。
平田 未来を見すえて、行動に移す。その実行力がすばらしいです。原さんの長所は、行動力があり、好奇心旺盛なところ。あと、ものすごい勉強家。ただ知識を身に付けるだけではなく、学んだことをきちんと実践して、仕事に活かしている。学びと実践を繰り返すことこそ、勉強の本質だと思う。

原綾香の魅力は「健全な野心」と「本質をとらえる力」
原 反対に、直した方がいいところはありますか?
平田 今のところ、全然ありません。まだ若いし、このまま自分のキャリア道を突き進んでほしい。原さんには、健全な野心があり、いい意味で貪欲。この点は、私にはないところですね。あと、勉強でも仕事でも、物事の本質をとらえている。「言葉が世界を創る」という考え方もまさにそう。だから、一緒にいるとすごく刺激をもらえるの。
原 お静さんは、フジテレビに入局後、系列の出版社に出向して広報を務めた後、未経験でいきなり書籍の編集長に任命されたんですよね。そのときに、「ベストセラーを出そう」とか「キャリアの大きなチャンスが来た」といった野心はなかったのですか?
平田 私は理想や目標を掲げて、それに向かって道を切り開いていくタイプではないのよね。与えられた仕事や目の前のタスクに全力投球することで、キャリアを積み重ねてきたの。広報職からいきなり、右も左も分からない書籍編集の仕事、しかも編集長になって、「これは大変なことになった」と思ったわ。
原 そこからどうやって、数々のベストセラーを世に送り出したのですか?
平田 しばらく悩んでいたけれど、自分の強みを活かそうと考え方を変えました。私はテレビ局で働いていたのだから、人気ドラマに関連する書籍を制作してみようと思ったの。それが初版40万部と大ヒットして、自信がつきました。仕事などで「無理!」と思っても、「じゃあどうすればできるようになる?」と、現状でできることを具体的に考えると、自然と思考が前向きになります。
原 お静さんのお話を伺って、自分がやるべきことに向き合ってきた結果、大きなキャリアにつながるのだと感じました。私は長期的なキャリアプランを立てたり未来の自分像をイメージしたりしていますが、それを実現するためにも、やはり今目の前にあるひとつひとつの仕事を大事にしていきたいと思います。
平田 そうそう、人生は欲張りでいいのよ。昔のように家庭か仕事、どちらかを選ぶ必要なんてない。今後、原さんが社会でどんな活躍を見せてくれるのか、とても楽しみにしています。あなたがもっと有名になって、「私、原綾香と仲良しなの」と周りに自慢するのが夢なのよ(笑)
原 きっと、そうなると思います(笑)。ありがとうございます。

インタビュー・執筆:高橋奈己/編集:堤真友子
撮影:坂本宏志
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